昨日のための小品

<電柱と犬>

彼らは伝えるために繋がってなければなりません。
しかしその片腕の断絶をみました。
「繋がるためのもならばなにをつないだっていいじゃない」
と誰かが言いました。
かくして犬は探しています。
何かに繋がろうと繋ごうと
繋がれたまま探しています。

 

 

 

 

 

 


<魚脂灯の使い方>

まず魚の口に蝋燭を差込み火を点します。
火に炙られて魚はだらだらと脂汗を流します。
蝋が溶けきり彼らの汗に燃え伝ったら
きっと魚の形にきれいに燃えることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<秋に読書>

栞みたいに平たくなって
彼らの翅は静かに頁を示します。
トンボもチョウも物言わぬ穏かな肢体です。
ただカブトムシだけは。
ページを持ち上げ雄弁に語る。
「さあこの頁を読め!」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<首吊り縄>

靴を脱いで踏み台にのぼり
さあとぶよといった男の子。
火の輪くぐりのライオンのように
華麗に輪に首を通した男の子。
彼の体は輪をすり抜けて
そのままどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


<コンパニオン・バードの育て方>

ジュウイチはコルリに卵を預けた。
コルリは托卵所に卵を預けた。
「さあ迎えに来たよ」
「出しておくれ出しておくれ」
「ここを開けて返しておくれ」
非情に徹した衛生管理。
彼らは鳥籠に入れない。
彼らの野生が失われるまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


<ショートケーキ>

乳白色した乳歯に別れを告げて
お墓みたいに地面に埋めました。
今日現れ出でましたのは永久歯。
赤いイチゴを乗せてあげよ。
蜂蜜たっぷりかけてあげよ。
蟲惑的なデコレーション。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<履きにくい靴>

やめてやめてと叫ぼうとも
馬にしゃべる口などあるはずもありません。
ごめんなさいはこれからひどいことするよって合図です。
(おうまさんごっこ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<一人旅。>

夜のしじまのしましまもよう。
階段のぼって柱をぬって
「おなかがすいた」と叫びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


<オオカミと7匹の子羊>

神の御前にて罪を告白せよ。
涙ながらに語るオオカミの言葉を子羊たちは聞きません。
「針と糸が必要だ!」
兄弟のうち一人が叫びました。
「オオカミの口を閉じねばならない」
チョークも飲まぬオオカミの声など耳に耐えぬ。
お母さんのconとcalを縫い合わせたように
オオカミの口を縫ってしまえ。
もう生まれることもなく食べられることもない
たった7匹の子ヤギたち。